食いものや賛歌

 『食いものや賛歌』番外編・新橋の夜 『プレ・ド・ラガール クリヨン』

Gare_3 いつものように東京の夜、今晩はなぜか物憂い。というか、ここ何日か失恋した後のように気分はどうも低調なのであります。最近初めて老眼鏡を買ったことも腰痛でスキーに行けないことも商売の不安も、原因はいくつか重なっているように思うのですが・・。

今日は生憎日曜日で『和作』は休み。鮨でも買ってこのままホテルに行ってしまおうかと思いながらも新橋駅地下通路をうろうろして、ふと、普段は素通りしていたレストランの《ワイン》の文字が目に入ってきました。ふいに気持ちがフィットした感じでこの店で食事をすることにします。店の名前は『プレ・ド・ラガール クリヨン』。人が忙しく行き交う地下通路沿いのあらたまって食事をするような外観ではありませんが入ってみると意外に感じがいい。カジュアルなんですが、それがちょっと静かに本を読みながら(和作だとそうはいかない)一人で食事をしてお酒を飲むのにちょうどいい感じ。カウンターに案内されると端に一人トレンチコートを着たまま英字新聞を片手にワインを飲んでいるオヤジがいる(さすがに東京、田舎にはこういうオヤジはいない)。僕はそのオヤジの反対の端に腰掛け、4種類用意された赤のグラスワインのうち奮発して(と言っても900yen)一番高い〈マルベック・オークカスク〉というアルゼンチンのワインと、ホワイトアスパラガスとエスカルゴのプロバンサル(900yen)、リヨン風ポテトのバターソテー(500yen)を注文する。「リヨン風ポテトというのはこれ?」とメニューの写真を指さすと、「そうですよ」と笑顔で答える店の女の子も感じがいい。僕は持ってきた椎名麟三の『重き流れの中に』を開く。19歳の時に読んで以来の懐かしい小説に思わずあのころの自分を感じて、物憂い気分の上にさらに感傷的な気分を重ねても、美味しい料理とワインに少しずつ暖まる体を感じながら今宵はゆったりと夕げの時が過ぎていくのでありました。ちなみに二杯目のワインは少しけちって〈ヴィション・メディタレニアン・ベルネソーヴィニヨン〉600yen。料理は他に注文しませんでしたが、エスカルゴの皿に残ったソースにバケット(250yen)を浸して食べるとこれがまた美味しかった。

今日を書いたこのレストラン、家内労働的な個人経営の店を紹介するという『食いものや賛歌』のいわば番外編ということで。

プレ・ド・ラガール クリヨン
港区新橋2 東口地下街1号(JR新橋駅直結)  tel 03-6218-0118
営業時間 11:00~23:00(LO22:00)

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『食いものや賛歌』5 新橋『和作』

Wasaku_3 誰でも出張先の夜は寂しいものではないですか。
仕事ですから、遊びに来ているわけではないし、かんたんにラーメンか立ち食いそばでも食べてすましてしまうこともありますが、何となく人恋しく、気持ちが落ち着かない時、よく立ち寄るのが新橋の『和作』という呑み屋さんです。新橋駅の汐留側のすぐ前に新橋駅前ビル1号館という古い雑居ビルの地下1階には、5人も入れば一杯になるような立ち呑み屋さんから、もつ鍋屋、餃子屋、バーなど、屋台が屋内に入り込んだような酒場街がありますが、『和作』はその1階、老朽化したこのオフィスビルと一緒に時をきざんできたように《酒 肴 麦とろ 和作》という看板を出しています。3年ほど前、東京の常宿を上野から未来都市のような汐留に移し、特に理由もなくこの店ののれんを初めてくぐったのは2年くらい前でしょうか。その時はお客は誰もいない、6畳間を縦に伸ばした程度の狭い店の一番奥のテーブル席に、《ここでいいですか》と腰を下ろし、たぶんビールと刺身を何かいただいた後、看板に「麦とろ」とあったのでそれをお願いすると、《それは、お昼の・・》と言いながらもすり鉢でとろろを作ってくれて、ご飯と味噌汁と一緒に出してくれました。(最近になって、その時の話しを和作のご主人にすると、《店で一番良い席に座った》と言っていましたが)それから東京に来る度に、ちょこちょこ通うようになり、私の息子が東京で修行中の時は何回か二人で来たものですが、一人韓国人の25歳くらいのかわいい女の子が働いていて、息子がその女性のことを《観音様》のようだと密かに想いを寄せていたようです。この女性はもう韓国に帰ってしまい、今は同じ年頃の中国人の(観音様というよりは地蔵様という感じの)かわいい女の子が働いています。私は東京の居酒屋で呑むと田舎(岐阜)との違いを感じるのですが、東京の人の方が、フレンドリーで酒を楽しく呑みますね。それに横で話しを聞いていると、話の内容が気が利いている。だから田舎がどうだとは言いませんが。こうしてこの店に通うようになり、この店のご主人が秋田のご出身で、もとはプロの演歌歌手であること、テニスの達人であること、落語家(?)であることなど知るようになりましたが、そのお店を気にいるかどうかは当たり前のことですが、料理や酒の味ももちろん大切ですが、くつろげるかどうかですね。そういう意味では、まさに《場末》の呑み屋のような『和作』は、私には居心地のいい空間のようです。

『和作』の名物料理《きりたんぽ鍋》(季節によっては、じゅんさい鍋も)
秋田能代出身のご主人が、誠心誠意作る絶品の《きりたんぽ鍋》、当日の2時までに予約、一人前1.500円。昼の定食、麦とろ定食780円。

『和作』
東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館1F TEL 03-3575-1756

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『食いものや賛歌』4 岐阜『手打ちうどん なお支店』

日本の世の中には、レストランを紹介するブログや、テレビ番組はごまんとある。しかし、一方では、毎日およそ25,000人の人々が飢餓で死んでいるのだ。そのことをよく考えて、食いものの話はしなくてはいけない。さて、そういうことで、『食いものや賛歌』というカテゴリーを設けてから、随分と日が経つわけですが、第1回目は、わたしが週に2回は行くという蕎麦屋(うどん屋)さん。近頃の蕎麦屋というと、高級鮨屋か、料亭かと見まがうようなところや、塩で食えやら、香りをかげなどと、国民の主権を奪う店まである。おまけに高いのだ。食いものや商売で一番暴利をむさぼっているのが、このての蕎麦屋ではないかとも思う。わたしは、「天ぷら蕎麦」で千円以上取る店を蕎麦屋として認めない。蕎麦屋は昔から庶民の味方、庶民のオアシス憩いの場であるはずだ。だから蕎麦屋は先ず安くなくてはならぬ。安くて、儲からなくても、こころを込めて蕎麦を茹でる。蕎麦屋のようなシンプルにこころの通ずる商売は他になかなかない。ツルッとすすればそこのおやじが見えるのだ。

『手打ちうどん なお支店』
岐阜市三番町19番地 tel 058-262-8410
土曜定休 11:30~17:00 駐車場2台

うどん400円、きつねうどん500円、天ころうどん800円、味噌にこみ(並)600円、ざる蕎麦530円、カツ丼600円、天丼650円、天とじ丼700円。

『手打ちうどん なお支店』は、普通の蕎麦屋、うどん屋です。だけどおいしい。

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『食いものや賛歌』3

食いものやさんというのは、私はいい仕事だなと思います。少なくとも今私がやっている仕事よりいい。食いものやさんと言っても、企業化しているところもありますが、私の言う食いものやさんは、家内労働でやっているようなところです。それでそこそこ食えるなら今の私の生きている世界よりどれだけいいか。始終金儲けの話をしているような世界で生きていると、実は人の本当の幸せから遠ざかっていきます。

串を一本一本ハタハタと団扇で煽りながら焼く、茹でたうどんをパッパッと水を切って、さっと丼に入れて、大きな声で「はい、お待たせ」とお客さんに出す。お客さんはつまようじをくわえて「ごちそうさん」と言う。別にご機嫌を窺ったり慇懃に接しなくとも、こころを込めておいしいものを出せば、その料理がお店の人の気持ちを伝えてくれる。よく「書は人なり」と言いますが、「料理も人なり」です。食いものや稼業も楽ではないよと言われるかもしれませんが、ものを作って、お客さんに感謝されて、それで食っていく。何も自分で作らず、ただ右から左へ、ものを動かすだけで生業(なりわい)とするよな仕事よりどれだけ真っ当か。わたしはつくづくそう思います。

(ですから、私の今の商売も、ちゃんとした仕事が何か、見失わないようにしなければなりません。・・そのための『食いものや賛歌』です。)

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『食いものや賛歌』2

前々回、先輩M成りさんの話を書きましたが、この方、講釈を並べる店もだめなんです。これは塩で食えとか、そのままでとか言われるのが嫌いなんです。それから、偉そうにしている店もだめなんです。無愛想なのはいいんですが、お客の方がへりくだっているような店があるでしょう。だからこの方、鮨屋は基本的に好きではないようです。最近、蕎麦屋でもそんな店がありますね。

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『食いものや賛歌』1

美術商のM成さんという面白い先輩がいます。「岡田君はまだ料理がわかってないんだよ」と言われながら、この人に何軒か飯を食いに連れて行ってもらったのですが、この人の食いものや観みたいなものが私は好きです。一つは値段が高いとところは嫌いなんです。高けりゃ旨いに決まっているだろと言います。もう一つは人間なんです。作っている人、それが何より肝心なんです。最近は、次はどこへ連れて行ってくれるんですかと言うと、「岡田君はうるせーからな」なんて言って連れて行ってくれませんが、硬派なテーマばかりでも私自身の実像にそぐわないので、シリーズものとして、「食いものや賛歌 」というテーマで、私の好きな料理屋さんを紹介していこうと思います。

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