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ETV特集「吉本隆明語る」を見て思ったこと。

吉本ファンとしては、言葉を発しているその『貌』を見てみたいという欲求は当然あるし、言葉以上の何かを伝えることもあり得るのかもしれない。しかし、それはどういうことなのか。僕は中上健次の実際に言葉を発するその姿を見て、肉体が言葉を絞り出しているような強い印象を受け、そこに中上健次という人の人間の根っ子のようなものをまざまざと見たような気がした。そういうことが、その人の文学の本質どう重なっていくのだろうか。それは一致すると考えていいのだろうか。どこに書かれている文章だったか思い出せないけれど、吉本隆明は、以前、テレビに向けて自分は言葉を語れないという意味で、《書いたことでしか自分は責任をとれない》というようなことを書いていたと思う。小林秀雄は、『ゼークトの「一軍人の思想」』を昭和18年に文学界に書いた。小林秀雄は、これに遡る前年の昭和17年に、ドイツの軍人ゼークトの『一軍人の思想』(岩波新書)を読み、その感銘を語った講演録『歴史と魂』を発表し、さらに、ゼークトの『モルトケ』を読み、《この著者の思想の由って来るところの深く遠いのを知り、感慨をあらたにしたので、また、書いてみようと思う。》(ゼークトの「一軍人の思想」)と、この『ゼークトの「一軍人の思想」』を『歴史と魂』に重ねた。そのなかで小林秀雄は、《自分が精通し熟知した事柄こそ最も難しいと悟る道》こそ、《立派な行為者の道》であり、それを《一種の神秘道》と表現する。そして、《言おうにも言われぬ秘儀》を実行(行為)によって明るみに出すことを「不言実行」であると言い、次のように結ぶ。《文学者にも、無論、不言実行はある。喋る事と書く事とはまるで違った道だ。》と。

吉本隆明は、何を語ろうとしたのか。何を伝えよとしたのか。今、吉本隆明を駆り立てているものは何であったのか。ひょっとして、《言おうにも言われぬ秘儀》を実行(行為)によって明るみ出そうとしたのであろうか。吉本隆明は、83歳の、背中も曲がり、糖尿で歩くことも不自由な痛々しい我が身を引きずって3時間を超えて話し続けた。昔から吉本さんの語り口はたどたどしい。そのたどたどしさが83歳の年齢がさらにたどたどしくさせている。僕はふと、三島由紀夫の最後の演説を思った。吉本隆明は畳の上で死のうとは思わないとどこかに書いていたではないか。もちろん三島由紀夫のように日本刀を振りかざすということではない。吉本隆明は、三島由紀夫とはまったく違う。人間というのはまったく違うということがあるのだと僕は思う。吉本隆明は、徹底的に自分を突き放すことができるのだ。徹底的に自分以外の者のために生きて書くとということが、それが自分のために生きるということであることをとことん知っているのだ。それが、小林秀雄のいう「批評トハ無私ヲ得ントスル道ナリ」ではないのか。

テレビのなかで吉本さんは、言葉をふらふらさせながら語り続けた。何か言葉が吉本隆明の周りをひらひらと舞っているようにも見えた。僕にはそれが楽しい。もちろん吉本さんは伝えたいものがあるのだ。そして僕たちは少しは真剣に考えなければならない。そして、それを知るためには、吉本隆明という文学者が、生涯をかけて書いてきた、その書く者の苦闘の道筋を、僕たちだって、少しは骨を折って辿るしかないのだ。それは、これから吉本隆明という人が存在しなくなっても僕たちがしなければならないことだ。

こうして、思うまま感じたことを書いてきて僕はよくわかった。吉本隆明は文学について語っていたのだ。文学は楽しいぞと、そのことを吉本隆明は僕たちに一番伝えたかったのではないか。

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